完璧だった妻が堕とされた先にたどり着いた幸福論 ―ゆずの樹の儀式―
あらすじ
東京近郊の下町でパン工房「ゆずの樹」を営む木下優香は、重度の食物アレルギーを抱える娘・柚希を守りながら、金融機関に勤める夫と穏やかな日々を送っていた。
美貌、家庭、仕事。 誰もが羨むような、満ち足りた生活。
しかしその日常は、ある男の存在によって静かに歪み始める。
商店街で顔を合わせる向かいの精肉店主・笠原。
彼は偶然を装いながら優香に近づき、わずかな綻びを見逃すことなく、ゆっくりと距離を詰めていく。
その時すでに、優香を自らの“物語”へ引きずり込むための構図は完成していた。
そして――計画は実行に移される。
家族の安全を盾に取られ、拒むこともできないまま。
その出来事を境に、彼女の中で何かが変わり始める。
過去の記憶。 人前で晒され、叩かれていた、かつての自分。
本来なら否定すべき感覚を、なぜか拒めない。
それが新しいものではなく、もともと自分の中にあったものだとも気づかないまま。
やがて優香は、“ある場所”へと導かれていく。
それが何のためのものなのか、 自分が何を失い、何を得ようとしているのかも知らないまま――。